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神智学協会のヘンリー・スティール・オルコットと

ヘレナ・P・ブラヴァツキー

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エドワード・ブルワー=リットン鏡

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カール・ハウスホーファー

​2―3.ヴリル協会

 ブリル協会(ブリルきょうかい、Vril Society)はエドワード・ブルワー=リットンが1871年の著作した小説『来るべき種族』(The Coming Race)に触発され、その技術的な探求を目的として結成された20世紀前半のドイツのオカルト結社だと言われています。

 エドワード・ブルワー=リットンとは、イギリス貴族で男爵の小説家であり、彼の孫のヴィクター・リットン卿は、後に満州事変のリットン調査団の団長として、日本の歴史にも関与してくる人物です。

 この「来るべき種族」という小説では、地下世界に「ヴリル・ヤ」という超人たちが存在し、彼らはヴリルという超エネルギーを使いこなしていると言うのです。
 

 さて、エドワード・リットン卿が、この小説のインスピレーションをどこで獲得したのでしょうか?
 いずれの世界の小説も、その発想の原点となるものは必ず何かが存在しているものです。

 実はこの協会、1918年ドイツ・ベルヒテスガーデンで創立されたと言い、神智学協会の影響を強く受けていました。

 神智学協会とは、ヘレナ・P・ブラヴァツキー、ヘンリー・スティール・オルコット、ウィリアム・クアン・ジャッジらがアメリカのニューヨークで結成した神秘思想組織です。
 設立の背景には、19世紀後半のアメリカ・ヨーロッパで既存の教会を批判する一種のリベラリズムとして出現した「心霊主義」(spiritualism) の流行があったと言います。神智学協会は仏教やヒンドゥー教などの東洋の宗教思想の西洋への普及に貢献し、一方、インドの人々には普遍主義的なヒンドゥー教改革運動の一種として受け取られたと言われています。

 

 この神智学協会は思想面だけでなく社会的・政治的面でも一定の役割を果たしたと言われ、1920年代頃までは、洋の東西を問わず「世界をおおうバニヤン樹」といえるほどの広範な影響力を有していました。

 

 協会自体の活動は1930年代には下火になりましたが、その思想は書物などを通じて現代までオカルティズムに大きな影響がみられます。中心人物であったブラヴァツキーの思想は近現代の主要な神秘主義者たちに直接間接に影響を与えており、のちのアメリカのニューエイジ運動(現在のスピリチュアル)における様々な思想・信仰、大衆的オカルティズムの起源とされる程です。

 

 これは一つの想像という事になりますが、リットン卿はこの神智学協会の関係から、この「来るべき世界」の着想の原点を得ていたという事はないでしょうか?

 当時、チベットには「シャンバラ伝説」というのが存在していましたし、神智学協会で東洋思想の研究を進めていたと考えた場合、何かしら元型となる様な逸話が、リットン卿の元に届いていたとしても不思議ではありません。

 

 このヴリル協会の存在が広く知られるようになったのは、1960年にフランスで出版されたジャック・ベルジェとルイ・ポーウェルの共著『魔術師の朝』(Le Matin des Magiciens、日本では『神秘学大全』の題で抄訳が出ている)で取り上げられたことによると言われ、同書はルドルフ・ヘスのミュンヘン大学における教官であった地政学の創設者、カール・ハウスホーファーはヴリル協会の会員であったとして、この団体とナチスおよびトゥーレ協会とを結びつけたと言われています。

 

 このカール・ハウスホーファーですが、1908年から1910年までの間、駐日ドイツ大使館付の武官として勤務しており、1913年には博士論文「日本の軍事力、世界における地位、将来に関わる考察」をまとめ、それにより哲学博士号相当を取得していますが、この時に日本の秘密結社である「緑龍会」と接触し、神道に隠された多くの奥義に触れ、ドイツに戻った後、ヴリル協会を設立の際の情報の一つとしたという説もあります。そしてそれが遠因となり、後に日独伊三国同盟まで発展したというのです。またこの功績から1938年に日本帝国政府は、ハウスホーファー氏に対して「勲二等瑞宝章」を与えたと言われています。

 またそれ以後、ナチスとオカルティズムの関係を述べた(同書を元ネタとする)多くの記事や書籍において、ナチズムのルーツのひとつとしてブリル協会の名が言及されるようになりました。しかしながら『魔術師の朝』の記述はどこまでが事実でどこまでが想像ないしフィクションであるか定かではなく、ブリル協会が実際にナチズムにつながるような要素を有していたという確証は今現在のところ、公式の記録などはありません。

 ルイ・ポーウェルとジャック・ベルジェ以前にこの団体に言及したものとしては、ウィリー・レイによる『ナチス帝国の疑似科学』と題された1947年の記事がありますが、この記事によれば、小説をもとに設立された「真実のための協会」(Wahrheitsgesellschaft)と称する疑似科学的団体がベルリンにあり、小説『来るべき種族』に登場する「ヴリル」なる力を研究していたと語っており、少なくとも石油などの既存のいわゆる燃料によらないエネルギーの技術体系を探る団体であると見ることができると言われています。

 

 またその技術的成果は、当時のドイツ政府にも注目されていたらしく、戦時中はSSで新型航空機の開発に関与していたE-4セクションへの協力を厳命され、その関係施設で研究開発に従事していたとの指摘もあるようです。

 

 なお、その有力メンバーとして、ドイツの地政学者のカール・ハウスホーファーや物理学者であるヴィンフリート・オットー・シューマン (Winfried Otto Schumann, 後にペーパークリップ作戦で米国に移住し、イリノイ大学に移籍し、シューマン共振の論文を発表。)の名前が挙げられており、独自の研究開発施設を運用していたと噂もあります。

 

 ここで興味深い事として、ヴリル協会の所属構成員等の情報について、詳細は判明していませんが、ナチスドイツの中核に位置すると言われるヴリル協会が、神智学協会というアメリカを中心としたオカルティズム運動の影響の元で設立され、その行動の内容についてもイギリスの貴族である小説家の書いた小説が元になっているという点です。

 

 これはナチスドイツが単純に、ドイツ国内で発生し、ドイツ国内の独自の思想という事で動いていたという事では無いという、一つの証左でもあると思いますが、この点についてはよくよく思索しなければならない点であるかと思います。
 

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