
2.欧米に見る「自我」について

この「自分」という事について、最近になり興味深い研究論文が発表されました。
「宇宙は解離性同一性障害(多重人格)で、我々はその人格の1つ」研究者が発表! 宇宙意識と人間の関係が判明!」
これはAI(人工知能)を研究しているベルナルド・カストラップ博士が発表した「構築的汎心論」というものです。現在、科学の世界では「自我」などの心の事については、二大潮流というのがあるそうです。
◆物理主義
これは現代でもよく言われている事で、心の働き(意識)はすべて物理現象で説明できるという論です。だから人の感情や考えなどは、すべて脳内における伝達物質に連鎖現象であると述べています。しかしこれでは主観的に経験する「現象的な経験」を説明できないといわれています。これは周囲の動きに反応する事象は説明できますが、能動的な経験について完全に説明する事は出来ないという事です。
◆対立的二元論
先の物理主義の対立主義として言われているのがこの論で、これはこの世界は物質的なものと、非物質的なものの二元的なものを想定して、意識について論じているものですが、これにより先の主観的に経験する動きは説明できますが、物質的なもの(肉体など)と非物質的なもの(心)が相互に影響を与えるという事を説明する事はできないと言われています。こちらの二元論を提唱したのは、代表的な人物として哲学者プラトンであり、中世ヨーロッパのデカルトがいます。
この二大潮流に対して、近年になり「構築的汎心論」が提唱されました。これは物理主義とは逆に、この世界のあらゆる物、それは微小な物質に至るまで意識を持ち、それらは現象的経験をしているというのです。すべてに意識があるというのであれば、私たちの中にも意識があるという事も説明がつきます。そして極微の意識が集合体になったのが私達の自我という事で、それが自意識だと述べているのです。しかしこれは例えばパーツが幾つか集まった時にベンツになるというようなもので、あまりに都合的な論理であるとされた「結合問題」というのが絡んできます。
カストラップ博士はこの「結合問題」を解決するために、心理学の症例に目を向け、そこで「解離性同一性障害」に注目をしました。
この「解離性同一性障害」とは、かつて「多重人格障害」と呼ばれていましたが、この障害を抱えている患者は自分の中に複数の人格を持ってしまいます。かつて映画にもなった「24人のビリー・ミリガン」という話がありますが、これは1977年にアメリカのオハイオ州立大学のキャンパス内で、三人の女性に対する連続強姦及び強盗で逮捕されたビリー・ミリガンが、この障害を患っていると主張する事で注目され、世の中で広く認知される事になった精神障害です。
この障害を抱えた患者は自分の中に複数の人格を持ってしまうと言われています。傍目には複数の人格を意図的に使い分けている様にも見えますが、スイス大学の研究者が2014年に発表した論文によると、解離性同一性障害の患者と多重人格を演じる訳者のMRIスキャンを行ったところ、両者の脳では著しい違いがみられたとし、多重人格者はけして演技ではないと結論を出しました。
またこの解離性同一性障害の患者の中には、人格のみならず、肉体的にも影響がみられる人がいると言います。例えば、ドイツ・ルードウィッヒ・マクシミリアン大学ミュンヘンの研究者が2015年に発表した論文では、眼の見えない別人格を持つ患者の症例も報告されていたといいます。この患者は視覚に何の問題も無いのですが、眼の見えない人格に入れ替わると、眼を開いているにも関わらず、視覚に関係する脳の領域がまったく活動していない事が判明したと言うのです。
カストラップ博士は、この解離性同一性障害の症例から、宇宙にある意識と私達の個々の意識を捉えました。それは患者の自意識を宇宙にある意識として、私たち一人ひとりの意識は患者が持つ”それぞれの人格”にあたると言うのです。つまり宇宙には統一された意識があり、私達の意識はそこに包含された意識で、それぞれの意識は共存しつつ独立して存在しているという事なのです。ただしカストラップ博士はこれで意識に関する問題を解決できたとは述べておらず、あくまでも「観念論」と呼んでいます。